ランチタイムになるのももどかしく

私は運良く営業から帰ってきたばかりのソジンを捕まえることができた。

もっとも、テキはいやぁな顔をしたが・・・。


「ソジン!」


「・・・今、俺はお前と話がしたくない」


「なぜよ」


「よく言うよ。『飲みに行こう』って俺から誘ったときは

 慇懃無礼に断りやがったくせに」


「ランチ奢るわよ!」


「お前に奢ってもらったりしたら

 あとでジョンファに何を言われるか分からないから遠慮する」


「・・・そのジョンファとどんな話をしたの」


「彼から聞けばいいだろう」


「彼は東海なの!」


・・・昨夜、突然来てくれただなんて、死んでも言わないぞ!

もちろん、彼の名誉のためよ、彼の!

私がねだった(ねだる→強請ると書くと

まさにその通りだと自分でうなずいてしまう)なんて、言えるかっ!


結局、嫌々ながら彼は私の後をついてきた。

2週間前、初ランチをしたレストランに、また私たちは落ち着く。

ソジンは恨めしそうに私を見ているし、私はどう切り出したものか、言葉に迷う。


「ソジン・・・」


「なんだよ」


あのねぇ、下手に出たんだから、もっと愛想良くしてよ!


「私・・・」


「ジョンファに言っておけ。

 俺とジョンファは恋人同士じゃないんだから、毎晩の電話は要らないと」


「はい?」


ソジンはうんざりとした表情を隠しもしない。


「毎晩、毎晩、俺の新しい会社の可能性について語らせやがって。

 設立趣意書だけじゃ物足りないと抜かしやがる」


「どういうこと?」


・・・なんて聞かなくても、ジョンファの意図は分かる、はっきりと。

ジョンファ、ジョンファ。

あなたって、本当に・・・。

うろたえた私を見て

またソジンは大げさに皮肉をたっぷりと込めたため息をついてくれる。



「ジェヨン、お前は要らない。

 お前と一緒に仕事なんかしたら

 毎日あいつから電話がかかってくるようになる。

 『僕のジェヨンssiに無理させてないか』って」


私の頬が熱くなる。


「ジェヨン。俺の前で赤くなるなんて、悔しさで暴れさせたいか」


「ソジン・・・」


「お前たちは似たもの同士だよ。

 馬鹿馬鹿しいほどだ。

 さっさと結婚でも何でもしやがれ」



「あのネ、私ね、あなたの会社に入社させてよ」


「はぁ?」


「私、やりたいの。

 自分の新しい可能性、試してみたい」


「ジョンファが許さないだろう」


「私の人生なの、ソジン。

 私・・・、私ね、よくわかったの。

 私は、ジョンファがいなくちゃ生きていけない」


臆面もなく言い切った私に

ソジンは目を真ん丸く、本当に文字通り細い目を真ん丸くした。

それから、突然笑い出す。

もっとも、この場では笑う以外、私に対して応じようがないだろう。



「ソジン、まじめに聞いてよ。

 私、何があってもジョンファから離れないつもりよ、もう」


「はいはい、分かったよ、それで?」


「でも、でも私の人生は私の人生なの。

 この先、たとえば、たとえばだけれど

 ジョンファと結婚して、子どもが生まれたとしても

 私、仕事はしていきたい。

 ジョンファの人生が私の人生になるんじゃなくて

 ジョンファの人生に私の人生を重ねていきたいの」


私の言っていることが分かる? と、私はソジンの顔を仰ぎ見る。

彼はしげしげと私の顔を見つめ、それから後頭部を片手でなでおろした。


「ジョンファはそのお前の気持ちを知っているのか?」


「多分。彼は、あなたと一緒に仕事をすることを納得してくれたもの」


もっとも、それは毎晩のソジンとのミーティングの成果なのだと

ついさっき知ったばかりだけれど。


「甘い男」


「ラブラブだもん」


げっ・・・と、ソジンは、本当に吐きそうに顔をゆがめた。

すみませんねぇ。

恋に狂っちゃうと、陳腐な言い回しもとても自然になってしまう。

そのあと、ソジンはむっつりと私の奢りのランチをつついた。

私を見ようともせずに、ちょいと贅沢なコースランチを不味そうに噛み下している。



「ソジン」



「明日の朝イチで、退職願でも出してくれ。

 あとのことはそれが受理されてから話し合おう。

 会社側からは慰留されるはずだ。

 お前が抜けると、営業1課はしばらく機能停止だからな」



「大げさな」



「お前さぁ、10年もいたんだぞ。

 それがたかが1ヶ月くらいの引継ぎで何の支障もなく動くようなら

 そんなお前は新しい会社にいらない」


「馬鹿言わないでよ。

 たかが1ヶ月で何の支障もなく動くように引継ぎできてこそ

 私という人間の価値があるんでしょう?」


私の反論に、ソジンはにやりと笑った。


「OK。良く分かった。

 さっさと退職願いを出せ。

 明日からミーティングだ」










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