私は結局、またジョンファの腕の中で泣いていた。

「ジェヨンssiってば、泣かないでよ。
あなたがこんなに泣き虫だって知らなかった」

私だって知らなかったわよ!
でも、呆れたように言うジョンファの声音は、やっぱりひどく疲れていた。
そりゃそうだろう。
仕事を終えてやっと一息ついたところに、私からの唐突な電話が入った。
「会いたい」としか繰り返せない私の泣きそうな声を聞いて、取るものも取り合えず、そのまま社用車に乗って走ってきたのだ。

「ジェヨン、ジェヨンssi。
頼むから泣きやんでよ。
お互いに少し寝ておかないと、明日ひどいことになる」

「帰っちゃうの?」

「・・・あのねぇ・・・、知ってる?
僕は入社以来5年間、有給休暇だってほとんど取ってない。
明日は仕方ないから、無理言って午前中、半休取るよ。
もう、僕がいなくても動ける状況だからいいけれど・・・。
高校生じゃないんだから、あんまり無理言わないで欲しいな、お姉さん」

「ジョンファ!」  

私は彼をにらむ。
もっとも、泣いたあとのしょぼしょぼの目じゃ、まったく迫力はないけれど。
自分だって、年上の恋人に「会いたい」といわれて、車に飛び乗って4時間も走ってくるなんて、まるで高校生レベルじゃないか。
どんなパニックに陥っても冷静な判断を下せる営業マンが聞いて呆れる。
そこにあるのは、衝動と情熱・・・だよね(ちょっとうれしかったりして・・・)。
でも、少なくとも、彼も私も30歳を超えた「大人」のカップル・・・とは言いがたい行動に走っているな、どうも・・・。
けれど、どうしようもないじゃない。
ジョンファの腕の中にいながら、私の気持ちは乱れてしまう。
切なくて、熱くて、自分では抑えきれない。

「ジョンファ」

「何?」

「・・・私、どうしよう」

「何が?」

「・・・どうしよう。私、もう一人ではいられない。
あなたがいないと生きていけない」

「ちょ・・・」

・・・っと待って・・・と、多分彼は言いたかったんだと思う。
でも、その代わり、彼は私を抱く腕に力を入れる。
彼はゆっくりと息を吐き、私の昂ぶりが鎮まるのをじっと待ってくれた。

「ねぇ、ジェヨンssi。
少し眠ろうか。
あなたの望みどおり、僕はあなたに会いにきたでしょう?
あなたが眠るまで見ていてあげる。
だから、眠って・・・」

・・・でも、先に眠ったのはジョンファだった。
疲れきった彼は、私を腕に抱きながら先に寝息を立てる。
私は長いまつげが影を落とす彼の寝顔を見ながら、まんじりともできなかった。

ああ、どうしようと思う。
さっき、思わず口走ってしまったけれど、私はもう彼と離れては生きていけない。
33年間、生きてきたんだもの。
そのくらい分かる。
今までは、一人で生きてこられた。
男に振られたって、仕事で失敗したって、泣いても笑っても、一人で耐える術くらい身につけてきた。
でも、もうだめだ。
ジョンファと一緒に過ごす喜びは、全てを凌駕してなお私を簡単に泣かせてしまう。
これほど一人の男に心がなだれ込んでしまうなど、想像したことなんかなかった。
つい最近まで、まだ彼との関係が曖昧な状態にあったとき、私はとてもつらかった。
ジョンファへと心は傾きながら・・・
でも彼の心がつかみきれずに焦れて、挙句に諦めようとした。
でも、今の零れ落ちそうな心に比べればあの曖昧な状況さえ幸せだったと言い切れる。
迸りそうな言葉を彼の名前に変えて「ジョンファ」と、幾度呼んでも、私の心は不安で震える。
とっても幸せなのに、でもとても怖い。
彼の額にかかる前髪をそっと払うと、彼が少しだけ眉を寄せる。
そのしわさえ愛しいなんて、多分、チェミンが聞いたら笑い転げるだろう。
ソジンなら、「気でも狂ったか」と、呆れ返るだろう。
ジョンファの腕の中で大泣きしたのはたった2週間前だ。
この2週間で、私は自分の愚かさをとことん知ってしまった。
本当に、もう彼から離れられない。

「ジョンファ・・・」

「・・・ ジェヨンssi、眠ろう」

眠っていると思っていた彼が物憂げに応え、目を閉じたままさらに私を抱き寄せる。
彼の胸に顔を寄せて、私も目を閉じる。
規則正しい彼の鼓動が私の鼓動と重なる。

幸せすぎて、やっぱり怖い・・・。




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