会社の近くの定食屋さんで向かい合い、私たちは遅めの夕食を楽しんだ。
ジョンファはやっぱり疲れているようだけれど、でも、朗らかに笑いながら現在の仕事の進捗振りを話してくれる。
一段落したチェジュは後輩に任せて、彼は次のリゾート地へと仕事の現場を移す予定だった。


「ジョンファ・・・、あなた、ずっと現地回りよね?」

「うん。今年いっぱいは、半月から一月くらい、
それぞれの現地に張り付かなくちゃ。
何しろ1年がかりの仕事だから。
責任者はもちろん現地にいるけれど、それぞれのイベントが軌道に乗るまでは僕の責任だから」

「でも、こっちでの仕事もあるわよね?」

「もちろん、やるよ。
これでもチーフって呼ばれてるんだし」

私はお箸でご飯を口に運ぶと、そのままぼんやりと考えてしまう。
せっかく名実共に恋人同士になれたというのに、彼は週の半分は地方に出張していることになる。

私たちに与えられた時間は半分。
今年いっぱいは我慢・・・。
ちょっと心細くなって視線を上げると、彼は窓の外を行き交う人群れを眺めている。
いつものきれいな横顔。
疲労が愁いになってその横顔に深い翳りを作っている。
この男が私の恋人なのだと、あらためて実感する。
昨夜は、彼の腕の中で確かに眠った(いや、ほとんど寝ていないけれど)のだと、震えるほどの喜びとともに確認する。


「ねぇ、ジェヨンssi」

いきなり呼びかけられて、私はドキッと嬉しさにときめいた。
でも、彼は窓の外を眺めたままだ。

「何?」

「今夜はどっち?」

「え?」

「僕のところ? あなたの部屋?」

「何が?」

「・・・」

私のお間抜けな返事に、彼は少しばかり気分を害したようだった。
ちらっと私をにらむと、また窓の外に視線を向ける。

「僕と一緒にいたくないの?」

え〜っと・・・、ジョンファ君。

「だって・・・」

「何だよ」

「一緒にいたいけれど・・・」

あなたと一緒じゃ眠れないじゃない・・・と言っていいものかどうか・・・。

「明日も仕事だわ」

「今日も仕事だったよ」

う〜ン、そういう問題では・・・。

「早く決めなくちゃ、どっちかが着替えを取りに帰らなくちゃまずいだろ」

「ジョンファ」

「何?」

「その・・・、毎晩一緒というのは・・・」

「まだ二日目だ。いやなの?」

「いやじゃないわよ! でも・・・」

「僕はね、ジェヨンssi」

「うん」

「・・・恋人同士のお付き合いって・・・、ここしばらくしたことがない」

真っ正直すぎる告白は、私を予想以上にドキドキさせてしまう。
彼は私を真正面から見据えて、あ、ちょっと待って!
そんな真剣な表情で、彼にはあまりに不釣合いな告白されて、私はうろたえるあまり、手を添えていたスープ皿をひっくり返しそうになった。
そんな私のあたふたぶりを揶揄するような視線で見て(誰のせいだと思ってんだ!)

「だから、今夜は僕の部屋」

一体どういう思考プロセスでそういう結論になるのよっ!!!
ためらっている私の返事なんか聞きもしないで、彼はさっさと腰を上げた。
そのままタクシーで私の部屋まで私を引っ張っていくと、「待ってるから、早くね」 と、手振りまでつけて私を車から追い出した。


私は自分の部屋に戻ろうとして、2、3歩踏み出したところで思わず彼を振り返った。
何?とでも言うように、彼が私を見上げている。
こんなときの彼は、本当に無邪気な表情がよく似合う。
・・・演技という可能性も強いけれど・・・。
何しろしたたかな営業マンだし・・・。
結局、こいつに振り回されている・・・とあらためて思いながら、でも私はスキップしてしまいそうなほど嬉しげに車のそばを離れた。




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