翌日、私たちはジョンファの運転する車で、私の実家へと向かった。

そして・・・、正直なところ、予想通りの展開になった。

何を隠そう、私たち4人姉妹は例外なくメンクイだ。

2つ下のサリナのダンナはウォンビン似の男だし、

4つ下のジェナのダンナはチャン・ドンゴン似のパーフェクト・ガイだと呼ばれている。

一番下の妹のリヨンは私と7つ離れているが、ダンナはイ・ビョンホン似だ。

本人は、「猿顔だから」と謙遜するが、そんなことを言っていたら、イ・ビョンホンファンが怒るだろう。

とにかく、我が家はこれで韓国四天王が揃ったことになる。

だって、カン・ジョンファは・・・ね?

ま、多くは語るまい。

それで、だ。

案の定、ジョンファは私の傍らから引き剥がされ、妹たちの餌食になってしまった。


「ふ〜ン、ここがあなたの実家?」


と、車を降りて、しげしげと古い家を眺めでいた余裕は、あっという間に霧散してしまった。


「ただいま」 と、私がドアを開くなり、わらわらと玄関に集まってきた4人の女性の迫力に、


さすがのジョンファも一歩あとずさった。

その腕をむんずとつかみ、「さぁ、入って」と言った私と、

怖気づいて腰が引けていたジョンファをキラキラした8つの目が見つめている。

ん?

ああ、妹は3人だけれど、実は母もかなりのメンクイだ。

父は、チョン・ドンファン(サンヒョクパパ)によく似ている。


「お父さんも若いころは本当に素敵だったのよ。今も素敵だけれど」 というのは、母の口癖。


で、ジョンファを迎えたのは3人の妹プラス母というわけだ。

4人の女どもは、私がジョンファの腕をつかんで家の中に引っ張り込むのを、喜々として眺めていた。

そして、私が彼をリビングのソファに座らせるなり、私なんかを突き飛ばして、

早速ジョンファの左右に二人ずつ鎮座ましましたわけだ。


「ジェヨンssi・・・」


と、一瞬、あの(!)ジョンファが情けない声を上げたのを、私は聞かない振りをした。

一度は妹と母の洗礼を受けていないと、我が家の一員にはなれない。

ジョンファには3人の妹と両親の話は飽きるほどしてあるはずだ。

その上で、こういう事態を予想できなかったとしたら、

それは、カン・ジョンファくん、君の認識不足というものだよ。

私はさっさとリビングを離れると、キッチンに入っていった。

よくできた私の母は、今日の宴の準備をすっかり終えていた。

テーブル狭しと並ぶ母の自慢の手料理は、いつ見ても惚れ惚れする。

ごく普通の容貌しか持ち合わせていない母が、

何で、チョン・ドンファンそっくりだった父を射止められたかというと、

それは料理がうまかったからに他ならない。

学生時代、父に一目ぼれした母は、

せっせせっせと手作りのお弁当を持って父の元へと通ったそうだ。

結局、父はその母の手料理の罠に落ち、現在に至っている。

でも、そんな父だが、いまだに母の手料理に舌鼓を打っているし、

幸せそうに細められた目を見ていると、いい夫婦なんだなとつくづく思う。

そんな両親に育てられた妹3人は、

母同様、さっさと意中の男を射止め、さっさと結婚して、さっさと母になった。

私だけが33歳の今まで、独身だったということになる。

けれど、私だって・・・。

私は、ふふんと微笑むと、

母の作った煮物をちょいとつまみ食いして指を舐めつつ、またリビングに戻った。

彼は相変わらず妹と母に囲まれ、

つつかれたり、機関銃のように喋りかけられたりして、

一体誰に視点を合わせればいいのかときょろきょろしている。

けれど、その目に、

いつもの面白がりのやんちゃ坊主の光がよみがえり始めているのが分かった。

さすがね、やり手営業マンのジョンファ君。

あなたは、大丈夫ね、ほっといても。

私は彼(と、女4人)を見ていた視線を、リビングの横に移した。

リビングに隣り合った部屋では、妹たちのダンナが集まって、

楽しげにコーヒーなんぞを飲んでいる。

つまり、奮いつきたくなるほどの美形の男が4人

(つまり、父も一緒ってことだ)

優雅に語り合っているってシチュエーション。

身内だとはいえ、惚れ惚れとしたくなる私を

誰も責めることなんかできないだろう。




「ジェヨン」



「はい」


父がおかしそうに私の名前を呼んだ。

その視線は、未来の長女の婿(現在は予定だが)をキラキラ目で見ている妻に向けられている。

私も彼らのそばに座り込み、テーブルの中央に置かれていた菓子鉢に手を伸ばした。


「あの調子じゃ、私たちに彼を紹介してもらうチャンスは、永遠にきそうにないね」



「ああ、大丈夫よ。

 もう少ししたら、ジョンファは女性陣を手玉に取るわよ」


「ほぉ、頼もしいね」


「義姉さん」


セリナのダンナのウォンビンだ。



「なぁに」


「今、話していたんだ。僕たち、彼を義兄さんと呼んでもいいのかな」


「え?」


「だって・・・」


ウォンビンの言葉に、テーブルの周りに座っている義理の兄弟たちが、


「な?」というようにお互いに顔を見合わせた。



「彼、一番年下だよ」


イ・ビョンホン(リヨンのダンナ)が言う。

ああ、と、私は思い当たった。

そういえば、ウォンビンはセリナより3つ年上、つまりジョンファより4つ年上、

ドンゴンは32歳だから、2つ年上、ビョンホンにいたっては、なんとリヨンと10歳違いだから、

ジョンファより6つも年上ということになる。

長女の私と結婚する(予定)のジョンファは、

なんと義兄弟たちの中にあって、一番年下ということになるのだ。

あらまぁ・・・。

私は思わず笑ってしまった。


(この際だ、プロポーズがまだだということはしっかり黙っておこう)


「いいかな、彼、気を悪くしないか?」


年齢のワリには落ち着いたドンゴンが言う。


「かまわないと想うわ、そんなこと気にする子じゃないのよ」


「『子』ときたか。義姉さん、もう尻に敷いてるの」


ビョンホンが笑い出しながら言う。


「そういうあなたたちだって、妹たちに大甘じゃないの。

 今日も、彼女たちにせがまれて、ここまで来ちゃったんだから」


「興味もあったしね。義姉さんが、どんな男を連れてくるのか。

 何しろ、僕たちと義兄弟になるわけだし」


ウォンビンの言葉に、他の二人も同意しながら、それでもこらえきれずに笑っている。

しかし、いいのか、義弟たちよ、こんなところで、笑っていて。

私は、彼らの余裕ある表情を一瞥した後、振り返ってリビングを見た。

案の定、だ。

さっきまで、少々困惑気味だったジョンファが、

今はあの女性社員をぶっ倒れさせる微笑で、妹たち(と、母親)を見回している。

4人の女どもは口を閉じるのも忘れて、そんなジョンファを見ている。

あんたたちは、家でハンサムな男を見慣れているでしょ!

今さらジョンファに見とれたりしないでよ、まったく!


「やれやれ・・・」


と、一番年嵩のビョンホンが、呆れるようにため息をついた。



「お嬢さんたちのハートに火をつけてしまったようだな。

 今日はなかなか帰れないぞ。覚悟しておいたほうがいいようだな」


父のさもおかしそうな言葉に、3人の婿たちは顔を見合わせている。

ご愁傷さまでした、ジョンファにかかれば、こんなものよ。

・・・なんて余裕かましてはいられないのよね、私。

一生、ジョンファにやきもち妬かなくちゃいけないとしたら、私の身が持たないわ、全く!

まずは妹たちをジョンファから引き剥がそうと腰を上げた私の頭の上を、

どどどどどっと、まるで暴れ馬のごとく怒涛の足音が響いた。

こっちも相変わらずだな、甥っ子、姪っ子たち。

2階で大暴れか。

と、思うまもなく、リビング横の階段をその一団が走り降りてきた。

そして、「あ、おばちゃん!」と言うよりも早く、5人の姪っ子たちは、

目ざとくソファに座っている新顔を見つけたようだった。

ついでに言えば、私には甥っ子3人、姪っ子が5人

(セリナのところに男女一人ずつ、ジェナのところには女の子が二人、

 リヨンにいたっては、年寄りビョンホンがあせったか、男女二人ずつ、4人の子ども)がいる。 

上は10歳から下は2歳までの女の子たちは、

祖母と母親の薫陶ヨロシク、全員がおしゃまなメンクイだ。

友達には父親を自慢しまくる彼女たちが、ジョンファを見逃すはずがない。

たちまちに、5人のオンナどもは、

おばあちゃんやお母さんを押しのけて、ジョンファの周りに群がった。



「ねぇ、おじさん、お名前は?

あ、私はね、リィナ」(こいつは、10歳、セリナの娘だ)


「そしてね、この子(リィナがだっこしている2歳の姪っ子)はね、

 ジョアンナ(リヨンちの末っ子)よ」


「ああ、リィナとジョアンナ。二人とも、とてもキュートだ」


げ、ジョンファ、あんた友人の(ジゴロの)ヨンスのおバカが伝染ったか。


「おにいちゃま、あのね、私はね、ミア。よろしくお願いします」


おにいちゃまときたか、これはジェナのところの長女(8歳)。

体をよじりながらの自己紹介には、すでに女の色気がぷんぷんだ。

その横でもじもじしてジョンファの顔を直視できないでいるのが、


「この子は、妹のセア。6歳です。恥ずかしがりやなの」


侮れない姉妹に向かって、ジョンファはにっこりと微笑みかけた。

たちまちまっかっかになる8歳と6歳のオンナは、

すぐに5歳のスイン(リヨンちの長女)に押しのけられる。


「スインです。おにいちゃま、お膝に乗っていい?」


スインの爆発的暴言に、たちまち5人の姪っ子たちが暴動を起こしそうになった。

私は慌てて彼女たちのそばに駆け寄り、ジョンファの前に立ちはだかった。

大体、すぐそばにいる母親たちが止めればいいものを、

彼女たちは無邪気を装える娘たちを羨ましげに見ているだけだ。

私の背後で、さすがのジョンファがほっと小さく息を吐いている。

ちょっとお遊びが過ぎたようね、ごめんねジョンファ。

でも・・・、いつも私を翻弄するあなたに、ちょっとした復讐よ、

へへへ、ちょっぴりいい気分。



「待って、待って。もうジョンファのお披露目見本市はおしまい!

 早くご飯にしましょう。

 私たち、今日中にソウルに戻らなくちゃいけないんだから!!」


たちまち5人と4人(娘たちプラス母親プラス祖母)からブーイングの嵐が起こる。

しかし、私は、彼女たちの文句を無視してさっさとジョンファの手をとると、

オンナの輪の中から引っ張り出し、男たちが待っている隣室ヘ押し込んだ。



「ほらほら、お母さん、早くご飯の用意してよ!

 私たち、おなかペコペコなのよ!」



女どもをキッチンに追い立てながら、肩越しに男たちのほうを見ると、

近いうちに義父と義兄弟になる(予定の)彼らは、和やかにジョンファを迎え入れてくれたようだ。

私は安心してキッチンに入った。











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